四国攻防戦 〜青の序曲〜


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くだらない時間

他愛のない会話

つまらない関係

そんな世界が僕のすべてだった。



あの日、僕の世界が壊れた。

突然の襲来、突然の破壊、突然の死。

咆哮、怒号、悲鳴、様々な阿鼻叫喚の地獄絵図。

残ったのは、途方にくれる人々の群れ。

その日、僕の世界は壊れた。

「速水厚志!」

遠くのほうで呼ぶ声がする。

地震だろうか身体が揺れる。

「はやく起きんか!!」

耳元でやかましくがなりたてられ、寝ていたのだと気づく。

「やっと起きたか」

「おはよう。舞」

「なにが『おはよう』だ。もう夕方だ」

彼女の言葉に時間を確かめようと周囲を見回すが、この列車の中ではその行為が無意味だと思い出す。

「そんなに寝ていたの?」

「あぁ、死んでいるのかと思うぐらいにな」

舞お得意の冗談のつもりだろうか、見る目が得意げに吊り上がっている。

それはそれで可愛いと思うが、いつもの仏頂面の方が個人的には好みだったりする。

「コホン、ラブコメはその辺でよろしいかと」

わざとらしい咳払いに気づき周囲を見回すと、五分刈りにした髪が妙に似合う長身巨躯の女性が立っていた。

「あれ、神原少佐・・・居たの?」

少佐の階級章をつけたこの女性は神原麗という名前で、右腕を失った舞の護衛兼秘書官としてつけてある。

「ええ、芝村大佐とご一緒いたしましたので」

何で気づかないのかと問うような視線を向けられたが、あえて無視する。

「もう着いたんでしょ?」

「はい、列車は定刻どおり1735に松山駅に到着いたしました。あとは閣下にお降り頂くだけです」

早く降りろ、と言葉に出さずに急かすのは舞仕込みだろうかと思う。

いや、案外こういう性格なのだろう。

彼女は染色体を調整された若宮タイプなのだから。

「どうかなされましたか」

「いや、なんでもない」

彼女が不思議そうに顔をしかめると、その後ろからさらに不機嫌な気配がしてくる。

「厚志、早く降りろ」

不機嫌な顔をした舞に、蹴飛ばされて列車を降りる羽目になった。

やっぱり、舞仕込みではないと確信した。



駅を出てすぐに迎えの車に乗り、聖カタリナ女子学園に向かう。

かつての校舎は、幻獣側の四国上陸に対抗するべく防衛司令部としてその姿を変貌させた。

1999年の人類側の九州撤退、それに続く山口防衛線、九州奪回作戦によって幻獣側戦力の半分以上を削り取ったが、一部の勢力は佐賀関半島を経由して四国・佐田崎半島に至り、伽藍山・大森山・権現山・石神山・金比羅山の連山防衛線を突破し大洲市までの一帯が幻獣の勢力圏に組み込まれてしまった。

大洲市を策源地とした幻獣側に対抗するべく、急遽、伊予・松山要塞が造られることとなった。

「ここが僕たちの新しい戦場なんだね」

「うむ、我らが守るべき場所だ」




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